二．第一ラウンド・・・広告戦略の攻防

 ■場面は“天下一個別”の本社ビル内。

「さあ、塩川君、新規展開のレッスンを始めようか？」

「はい、キーツネさん、よろしくお願いします！」

「では、まず、大前提の話から。」

「はい。」

「我々の塾は関東圏の塾であって、今回、初めて関西に打って出るわけ。つまり、この教室の成功が今後の全国展開のカギを握ってると言っても過言ではない。」

「はい、理解しております。」

「で、その重要な作戦の第一歩目として選んだのが、京都市川科区。」

「はい。」

「何故、ここを選んだのか分かるか？」

「う～ん…市場がいいからですかね？」

「違う！」

「じゃあ、適当な物件が見つかったからですかね？」

「ふぅ…。塩川君ってさあ、相当、頭悪いよね。脳みそ空っぽの体育会系かな…。アハハハ。」

「すみません！アハハハ。」

「キミも一緒に笑わなくていいから！」

「あっ、すみません！」

「何故、ここを選んだのか？それは関西地区で最大級に生徒を集めている個人塾があるからだ。」

「それは、例の“個勉塾”のことですか？」

「そうだ。」

「でも、あそこは個人塾ではなくて、とりあえずは企業だと思うんですけど…。」

「そんなことはどうでもいい。あんなの所詮、個人塾に毛が生えた程度だから、呼び方は“個人塾”で十分だ。」

「あっ、はい…確かに。」

「ただ、実は、ああいうタイプの塾が大手塾にとっては一番目障りなんだよな。これまた何故だか分かるか？」

「いえ、分かりません！！」

「キミね、もう少し考えてから、分からないと言ったらどうだ！ミーはオツムが弱い奴は嫌いなんだよ。」

「すみません！勉強させていただきます！」

「まあいい。ああいう塾は、それなりに地域に密着していて、しかもまだまだ身軽な規模だから、やろうと思えば、大胆な戦略を取ることだってできる。」

「はい。」

「だから、そういう塾はなかなか潰れない…。」

「でも、先日、キーツネさんはあの塾はたいしたことないと仰ってましたよね？」

「そう、今話をしたのはあくまでも一般論だ。私も今回はそれなりに厳しい戦いになるかと覚悟していたんだけど、あそこの社長に会って、その考えが変わったね。つまり、百パーセント勝てると確信したよ。アハハハ。」

「なるほど。」

「で、その関西圏で強いとされている個人塾にいとも簡単に勝ってみなよ。世間はどう思う？」

「あの“個勉塾”までやられたと聞いたら、どこの塾も相当焦るでしょうね。」

「そう、それが今回の狙いなわけ。関西圏の塾がビビってくれたら、こっちのもんだ。」

「ほぉ～、そこまで考えての“個勉塾潰し”ですか？！」

「そうだ。それが大手塾の勝つための戦略。」

「はい、非常に勉強になります！」

「じゃあ、もう少し、この戦略について掘り下げてみるか。」

「はい、お願いします。」

「まず、戦略を立てる基本は、“敵”を理解することがスタートだ。つまり、相手が今現在どういう状況にあって、どういう心境になっているから、こういう動きをするだろうと予測を立てて、それに対抗する策を考えることが、正しい戦略の立て方だ。」

「なるほど、なるほど。」

「で、今回の“個勉塾”の場合を考えてみると、ここは５教室でそれなりに生徒数がいる。ただ、規模の割に社員が十三名もいるから、資金的には恐らくそれほど余裕はないだろう。」

「はい。」

「また、社長はオーラもなく、ビビりな性格だから、一か八かの思い切った手は打ってこないはず。つまり、大手塾のブランド力、資金力、人材レベルに対抗するために、この塾が取る戦略は、せいぜい、お金をかけずにできる“手作り感の演出”や“地道な広告活動（ポスティングや校門前ビラまき）”、そして“地元密着のアピール”だろう。」

「はい、恐らくそうですね。」

「ただ、これらの戦略は思ったほどの効果はない。だから、個人塾は、競合他塾と競争しても仕方がないと考え、内部充実とやらに目を向けるようになる。」

「なるほど。」

「でも、塩川君、内部充実って、いったいなんだ？ 」

 

 

■場面は変わって、タヌーキと我利サイド。（場所は“からくり屋珈琲店”。）

タヌーキはイチゴパフェを食べながら、我利へのレッスンを始めていた。

「とりあえず、内部充実ですかね？」

「出た出た、しょうもない答えが。ジブンのバカさ加減って何も変わってへんな～。いや、昔よりも磨きがかかってるかもしれん。」

「失礼ですよ！でも、内部充実の何がしょうもないんですか？」

「だってな、内部充実って、聞こえはええけど、いったい具体的には何やねん。」

「そりゃあ、成績を上げるとか、講師を育成するとか、まめに保護者に連絡するとか、そういうことに決まってるじゃないですか。」

「まあ、充実したけりゃしたらええけど、それって当たり前のことやん。そんな当たり前のことで、“天下一個別”に勝てると思ってるわけ？ジブンが“充実”に躍起になっている間に、あちらさんはどんどん生徒を集めてくると思うわ。」

「そうですかね…。」

「ジブン、もしかして、『戦う相手は“その塾”じゃなくて、“自分自身”との戦いです！』なんて臭いセリフ吐くんと違うやろな？」

「えっ？！タヌーキさん、何故、私が言おうとしたことが分かったんですか？」

「そら分かるわ。我利ちゃんの浅はかさは十二年前に嫌と言う程味わったからな。」

「そうですか…。」

「少しは成長したかと思いきや、全然やな～。まあ、人間なんて、そうそう変われるもんやないけどな…。」

「すみません…。」

 

※明日に続く

 

オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。