■場面は変わって、“からくり屋珈琲店”。
またあのコンビが来ていた。そう、タヌーキと我利勉だ。
「タヌーキさん、今回のテスト対策の結果なんですけど…。」
「おお、どうやった?」
「う~ん…めちゃめちゃ成績アップした子もいるんですけど、下がっちゃった子も横ばいの子もいて…。」
「そりゃ、そうやろ。皆が上がるわけないやん。」
「そうですけど、塾としては全員の成績を上げなければ…。」
「それも、そうやろ。それを目指して指導するんが塾やしな。」
「そうなんです。だから、何とも言えない気分でして…。」
「気持ちは分からんでもないけど、落ち込んでもしゃーないやん。ジブンらも全力を尽くしたんやろ?」
「もちろんです!」
「だったら、しゃーないやん。次に向けて頑張らせるしかないやん。」
「そんなことは分かってますよ!でも…。」
「何かジブンって、ウジウジして辛気臭いわ。」
「すみません…ウジ虫みたいで。」
「そうやな。ウジツトムちゃんやな!アハハハ。」
「ふん!」
「まあでも、全体的にはどうやったんや?」
「はい。前回のテストよりは全体的には成績向上してると思います。」
「だったら、とりあえずは、良しとしようや。」
「でも、どうやら、“天下一個別”の生徒たちは、もっと成績が上がっているようで。」
「もっとって?」
「具体的には分かりませんが…。」
「じゃあ、その“もっと”って誰情報やねん?」
「教材屋さんの情報です。」
「で、その教材屋さんとやらは誰から聞いたんや?」
「それは、“天下一個別”の人間に決まっているじゃないですか!」
「そやろ。だから、あてにならんわ。」
「えっ?どういうことですか?」
「人の感覚ほどあてにならんもんはないちゅうことや。」
「でも、本人が言っているんだから、上がっていると思いますよ。」
「まあ、それならそれでええやん。他の塾のこと推測してもしゃーないからな。」
「う~ん…でも、気になるというか、不安になっているというか…。」
「ほんま、ジブン、ショボい人間やで。筋金入りの小心者やで。あんな、だいたい成績が上がっているってアピールしてる塾ほど、そんな大したことないケースが殆どや。だから、心配せんでええ。」
「そうですかね?」
「ええか、ジブンも気を付けた方がええけど、人間ちゅうのは印象の強いもんがあったら、意識がそれに左右されて、全体もそうやと思い込む傾向があるんや。」
「ん?どういうことですか?」
「例えばや、喜んで塾に通って来てる生徒がいて、楽しそうにジブンに話しかけてくれたり、おかんからお礼の電話をもらったりすると、殆どの生徒がそう感じてると勘違いして、ジブンの塾は結構いいなんて思ったりするするわな。」
「はい。」
「でも、確かにそのガキんちょはそうかもしれん。そして、そのガキんちょと同じように楽しく通っている奴らもいるやろ。でも、それと同じくらい、そう思ってない奴らもいるんが普通や。」
「そんなもんですか?」
「そうや。もっと冷静に物事を見なあかん。まあ、世の中、一〇対〇や九対一みたいな極端なことはそうそうなくて、何でも五分五分か、六対四みたいな感じになってるもんや。」
「う~ん…。」
「何や?納得してへんのかいな。」
「はい。」
「ほんま、ジブン、頭固いな。」
「すみません。もともとの性格なもので。」
「じゃあ、もっと詳しく話をしたるわ。ジブン、二対六対二の法則って聞いたことないか?」
「はい、聞いたことないです。」
「これやから、教養のない奴はあかんねん。」
「すみません…。」
「何らかの集団があると、その中身は、だいたい二割と六割と二割に層が分かれるちゅう話や。」
「はい、それは具体的にどういうことですか?」
「例えば、会社っていう組織があるやろ?その中にいる社員は、やる気のある優秀な社員が二割、まあ普通に頑張る社員が六割、あとの二割は会社の愚痴ばっかり言って足を引っ張ろうとする社員に分かれるちゅうことや。」
「だったら、そのダメな二割の社員を育成して良い方向に持っていくか、辞めさせれば済む話じゃないんですか?」
「そう思うやろ?」
「はい。」
「じゃあ、実際にそのダメな二割を辞めさせるとするわな。そしたら、普通に頑張る社員から、新たなダメな社員が生まれて、また二割と六割と二割に分かれるんや。」
「へえ~。」
「まあ、これは極端な話かもしれんけど、集団ちゅうのはそういうもんやねん。だからな、塾の中でも、常に、超満足してる生徒二割と、まあ普通に満足な生徒六割、そして不満に思ってる生徒が二割いると思っといた方がええ。」
「なるほど。」
「だからな、仮に、百パーセントの生徒の点数がアップしたとしてもな、百パーセントの生徒や保護者がその結果に満足してるかというと、そうやない。例え、点数が上がっていたとしても、これくらいじゃ塾に行かしている意味はないとか、もっと上がると思っていたのに、これだけしか上がらんかったと言って不満に思う奴らもいるから、満足度が百パーセントというのはあり得んわけや。」
「なるほど、なるほど。」
「だからな、単に点数だけやのうて、不満に思ってる二割に対していち早く手を打たなあかんのや。」
「そうですね。何だか少しスッキリしました!」
「要は、塾なんやから、全員の点数を上げるんは目指さなあかんし、全員の生徒を満足させることに注力せなかんけど、結果として、どうしても二割くらいは不満に思う奴がいるさかい、結果に対していちいちウジウジしてたらあかんちゅうことが言いたいねん。」
「分かりました!励ましていただいて、有り難うございます!」
「で、肝心の生徒数やけど、十一月の伸びはどうやったん?」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。